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研究開発力の将来について(その12) ~正直者が~

 先日の投稿の続きです。

#さいきん、タイトルとはだいぶ離れて、かなりポリティカルな薫りが。0xF9C7

 まずは、とあるご高名なお二方のご発言から。

〔A氏のご発言〕

  ・どうも、競争とか再編とかいうと、とても怖くて、痛みが伴うような感じがある。弱肉強食になって、外から叩かれるイメージが独り歩きしている。しかし、それは違う。日本はこれまで、競争によって強くなってきた。なにも特別なことはない。

  ・残念なことに、いまの世の中には、不公正な競争がある。なにかちょっと政治家に頼んで、発注をしてもらったり、利権を活用して不当利益を得たりする。これでは困る。

  ・いま、正直な人間が報われていない。利権に守られ、本来なら民間でできることを、お役所仕事でぬくぬくやっている部分がある。

  ・5年後、10年後、正直者が報われる社会にしたい。自助自立の経済をつくりたい。自分のことは自分でやろう。自分で自分を支える社会になろう。本当は援助の必要はないのに、弱者を装ってきただけの人間が多かった。そういう人たちには、やはりきちんと頑張ってもらわねばならない。みんな、頑張っているんだから。

  ・変化することには、常に抵抗や反発がある。だが、そこを乗り越える過程には、喜びや感激がある。変化を積み重ねることで、社会は豊かになり、便利になるのです。

〔B氏のご発言〕

  ・いま日本は、「変わらないために競争しない」という、極めて不自然な社会になっている。徹底的に、堰を崩さなければならない。規制緩和も、その作業の一つだ。

  ・消費者が主権を持ち、売り手が懸命に努力する社会。それが実現しなければ、日本は衰退する。ただ、それだけのことです。

  ・いまこそ、考えてほしい。国の衰退は、容易に起こるということを。アルゼンチンは、第二次大戦後は南米屈指の豊かな国だった。ところがいま、存亡の危機にある。

(下線部は、筆者追記)

 一読すると、実にシュアーなことを仰っているようにみえます。

 お二方のご発言を総合すると、「いまの世の中は、不公平な競争がある。だから、(何が何でも)徹底的に規制を撤廃しなければならない。そうすれば、正直者が報われる、豊かで便利な国になる」となるでしょうか。

#ただし、それは、ある条件下でのみ達成しうるもので、仮に達成できたとしても、その結果は、およそ「豊かで便利な国」とは掛け離れた、殺伐としたものとなるのです。(後述)

 ここでいう、A氏とは、総務大臣・郵政民営化担当の竹中平蔵氏(当時、首相諮問機関「IT戦略本部」メンバー)のご発言で、
 B氏とは、オリックス取締役兼代表執行役会長・グループCEOの宮内義彦氏(当時、首相諮問機関「IT戦略本部」メンバー、「IT関連規制改革専門調査会」座長、現「規制改革・民間開放推進会議」議長)のご発言です。

(いずれも、「アエラ臨時増刊『大再編に負けない-こうなる、こう変わるあなたの業界』(2002年3月20日号)より抜粋)

 さて、このお二人のご発言から4年以上が経過した現在、「正直者が報われる社会」になりつつあるといえるでしょうか?

 先ごろ、「モノ言う株主」というよりは、「金にモノを言わせる仕手師」みたいな方が、1時間20分間も一方的にペラペラ喋りまくった挙げ句、あえなく御用になりましたが、世の中の状況としては、4年前より悪化しているように思えます。
(あの会見は、近年まれに見る、一大エンターテイメントでした)0xF9D1

#ちなみに、「M&Aコンサルティング」設立当時の運用資金の大半を出資し、その後のファンド拡大の後ろ盾となったのは、現「規制改革・民間開放推進会議」議長とされています。
(仕手師が捕まっちゃったら、無情にも知らんぷりみたいですけど。まぁ、カネの繋がりなんて、そんなもんです)

#さらに、驚くべきことに、「ソフトバンク」の事業報告書には、社外取締役として、現「規制改革・民間開放推進会議」議長のお名前が。
(「通信・放送の融合」で、各キャリアがガップリ四つの激論を交わしている時に、コンペティターの取締役に、本来、公平中立であるべきのはずの議長殿が納まっていたとは)

#さらに^2、前述の事業報告書には、やはり社外取締役として、日本マクドナルド会長兼最高経営責任者(当時、代表取締役社長)のお名前が。この会長が、日本マクドナルドの公開前に、自社株1,500株を手渡していたのが、何を隠そう、現「総務大臣・郵政民営化担当」なのです。
(同大臣(当時は入閣前の私人。ただし、政府の主要政策会議のメンバーに選任中)は、この店頭公開による株価上昇により、巨額の利益を得ていたとされています。これに対する、木で鼻を括ったような「国会答弁書」)
(なお、質問している政党と、私のポリティカリティーとは、何ら関連がありません。単なる情報ソースです)

(いや~、いつか書こうと思ってたんです。皆さん、仲良し子良しのオトモダチ同士だったのですね~)0xF9D1

(というか、国民に苦痛を強いておきながら、ご自身は“濡れ手deアワ~”だなんて。たしかに、「正直な人間が報われていない」世の中ですね。みょ~に納得)0xF9D1^2

 ところで、その議長殿が引き合いに出された「アルゼンチン」ですが、どのような理由で「存亡の危機」に陥ってしまったのでしょうか。ここで、以前に少しお話しした、“シカゴ・ボーイズ”たちのご登場となる訳です。

 “シカゴ・ボーイズ”とは、シカゴ大学経営学部のミルトン・フリードマン教授のゼミで学び、世の中に輩出された卒業生たちのことを指します。その多くは、アメリカ政府のみならず、世界銀行、IMF(国際通貨基金)など、世界レベルでの金融・財政政策を策定していく重要ポストに就いています。

 その教義は、経済学部の方からは怒られてしまいそうですが、いくつかの情報ソースから、工学部のアタマで情報圧縮すると、

  ・もし経済活動がうまく行っていないのであれば、それはどこかに規制が入っていて、公平な競争を阻害しているからである。
  ・規制を取り払い、自由競争を推し進めれば、必ず市場は(アダム・スミスのいう“神の見えざる手”によって)健全なる成長を果たすことができる。

というものです。
(ちょっと圧縮しすぎか)0xF9C7

 いずれにしても、まるでどこかで聞いたようなフレーズです。

 ミルトン・フリードマン教授は、フリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエク教授らと共に、ケインズの経済理論を批判し、市場経済を擁護、推奨しました。(後に、お二方とも、ノーベル経済学賞を受賞)
 その理論は、「新古典派経済学」などと言われ、アメリカや、アメリカかぶれのエコノミストどもにもてはやされています。

 一言で言えば、「自由放任主義」です。

 その教義を骨の髄まで叩き込まれた“シカゴ・ボーイズ”たちが、巨額の債務にあえぐアルゼンチンに対して何をしでかしたかというと、自由化・グローバル化という名の下での「徹底的な規制撤廃」です。

 ここら辺の事情は、グレッグ・パラスト著の「金で買えるアメリカ民主主義(アメリカ改訂版)」の第四章、「レクサスを売れ、オリーブの木を燃やせ!」にて、詳しく述べられています。
(かなりの活字量なので、読むのに少し難儀しますが)

#奇しくも、このグレッグ・パラスト氏は、ミルトン・フリードマン教授のゼミの出身者(すなわち、“シカゴ・ボーイズ”の一人!)ですが、世界銀行やIMFのおぞましい暗部を目の当たりにし、新古典派経済学者として金融・財政政策を策定していく道に背を向けて、調査報道記者に転身した数奇な方です。

#ちなみに、「レクサスを売れ、オリーブの木を燃やせ!」とは、もちろん、「レクサスとオリーブの木」(トーマス・フリードマン著)のアイロニーです。

(以下、まだ編集中)

 このまま、思考停止状態の“学者さん大臣”に率いられたままだと、“濡れ手deアワ~”の件が如実に表すように、「正直者が報われる社会」どころか、ますます「正直者がバカを見る社会」になっていきそうです。0xF9CA

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