最初に予告しておきますが、Audi R8のAir Conditioner(以下、A/C)フィルターの交換は、技術的といよりは、肉体的に(体力的に)、かなりタイヘンです。
これからDIYしようという奇特な方は、心して取り掛かってください。

まずは、部品の調達から。
自動車用の各種フィルターは、Mann+Hummel(マン・ウント・フンメル)社、Hengst(ヘングスト)社、MAHLE(マーレ)社などが生産しています。欧州の自動車メーカーの純正品は、これらサプライヤーからのOEM品となっています。
今回は、ドイツはシュトゥットガルトに本社を置く、MAHLE社(1920年創業)のものを購入しました。
ちなみに、Mann+Hummel社(1941年創業)もシュトゥットガルト近郊のルードウィグスブルク、Hengst社(1958年創業)は、ドイツ北西のミュンスターに本社があります。
ちなみに^2、画像に見えるフロアマットは、「Audi プレミアムスポーツフロアマット」といい、納車時に購入したものです。
リアルカーボンを用いた「S」の字が大胆にあしらわれていて、毛足も長くフッカフカなのですが、Audi R8用は、左右2枚セットで10.8万円(税込)もします。
Audi S8やRS7、RS6用は、5枚セットでも同じ値段なのに、さすがにタマ数が少ないだけあって、“プレミアム”な価格設定になっています。

つづいて、サービスマニュアルを確認します。
ここだけ見ていても、どこのことを指しているのか分からないため、A/Cユニットの全体像を見てみます。

車両中央にA/Cユニットが鎮座していて、A/Cフィルターは、助手席側からアクセスできるようです。(画像は、左ハンドルの場合)
ここだけ見ると、簡単にアクセスできるように思えますが、とんでもなくタイヘンです。

場所が分かったところで、助手席側のパネル関係を、片っ端から外します。
助手席の足下のパネルを外し、ヒューズボックスにアクセスできるようにします。あわせて、グローブボックスのアンダーパネルを外します。
余談ですが、右側の白い大きなコネクタが付いているハーネスは、「Sound Shakit」(PA504-Z2)を取り付けようとして引き出したものです。
左側の黒いボックスは、4K解像度のドライブレコーダー(Vantrue X4S Duo)の駐車時常時監視用の電源ユニットです。(その他は、ETC 2.0ユニットの電源引き出し線など)

ヒューズボックス・ユニットを、丸ごと外します。

今後の作業のため、助手席の左足元にある、LED非常信号灯の取付ステーも外しておきます。
このステーがあると、作業中に背中に当たって痛いのと、ツメが折れる可能性があるためです。

ヒューズボックス・ユニットを取り外すと、A/Cフィルターが収まるボックスに、ぎりぎりなんとかアクセスできるようになります。
暗くてなんだかよく分かりませんが、場所としては、助手席の右足元の上部で、目的のボックスは、この一番奥にあります。

A/Cフィルターが収まるボックスです。(画像の天地は、右に約90°回っています)
ボックスには、カバーが付いていて、このカバーには、固定するためのL字型のツメが付いています。
このツメを外して引き上げると、カバーがパカッと外れます。
ちなみに、A/Cユニット本体は、ドイツメーカー製ではなく、「DENSO」製でした。

カバーを外すと、中に入っているA/Cフィルターにアクセスすることができるようになります。
フィルターの縁に“耳”が付いているので、この耳を引っ張ることで、フィルターを引き出すことができます。
なお、Audi R8のフィルターは、同じ大きさのものが、縦に2段になって収納されています。(後述)
下段のフィルターを取り出した後、上段のフィルターを引き下げ、下段と同じように引き出します。

A/Cフィルターの比較です。
上段が、元々装着されていたフィルターで、Mann+Hummel社製。生産地はドイツでした。花粉対応のもので、案の定、かなり汚れていました。
数年前に、いつもお世話になっていたPorsche専門店で交換してもらったもので、Audi純正品(納車時に装着されていたもの)とは異なるかと。
下段が、新たに装着するフィルターで、MAHLE社製。生産地はルーマニアでした。
いずれのフィルターにも、上面に矢印が付いています。A/Cユニットの吸気の方向に合わせ、取り付ける向きが決まっています。
また、よく見ると、Mann+Hummel社製のものは、両側面に“耳”が付いていますが、MAHLE社製のものは付いていません。
代わりに、気密性を高めるためのスポンジが、両側面に付いていました。

上段が、元々装着されていたA/Cフィルターで、下段が、新たに装着するフィルターです。
前述のとおり、同じ大きさの長細いフィルター2つを、ボックスの中で上下に組み合わせ、1つのものとして使用します。

あとは、A/Cフィルターを取り外したのと逆順で、取り付けていきます。
前述のとおり、取付方向を間違わないよう注意します。吸気(矢印の本)が前方、排気(矢印の先)が後方になります。

TIPS的なことを付け加えるとすると、前述のとおり、同じ大きさの細長いA/Cフィルターを、ボックスの中で上下に組み合わせることになります。
これには、先に挿入したフィルター(1段目)を、平行を保ちながら上部に押し上げる必要があります。
今回の作業では、暗がりを照らすため、LEDワークライト(スキニーライト)を用いました。
このライトの全長は、30cmほどありありますが、これがちょうどフィルターを平行に押し上げるのに、もってこいの大きさでした。
フィルターに無理な力が掛からないよう注意しながら、1段目を押し上げ、無事に2段目も挿入することができました。
ネットの情報によると、下手な(いい加減な)ショップでは、この理屈を知ってか知らずか、無理にフィルターをボックスに押し込み、次の交換時に取り出したところ、フィルターがバッキバキに変形した状態で見つかったことがあったようです。
タイムコストに追われ、オーナーの気持ちをまったく考えていない非道いショップは、どこにでもあるようです。
なお、サービスマニュアルには、
- (フィルターに付着したのホコリや花粉が車内に飛び散らないよう)作業前にボックス下にシートを敷いておく。
- フィルターを取り外した後は、市販の掃除機で、ボックス内部のホコリや花粉を吸い取っておく。
とか、書かれています。
心の余裕(体力的な余裕)がある場合には、そのようにした方がよいでしょう。

なぜに「心の余裕がある場合」かというと、作業時は、このような体勢になるためです。
一見、大したことがないように見えますが、頭から腰までを、助手席前のスペースに預け、さらに頭部を、グローブボックス下の狭いスペースに押し込む形になります。
右腕を、目一杯伸ばさないと、A/Cフィルターが収まっているボックスに手が届かないのですが、作業をしているうち、関節(肘)がグローブボックス下のフレームに挟まってしまい、抜け出せなくなりました。
一瞬、
「このまま誰にも見つからず、干からびてここで死んでしまうのではないか」
と悪い予感がよぎりましたが、なんとか関節を抜いて、上半身を起こすことができました。
実は、Audi R8のA/Cフィルターの交換は、予想以上に大変な作業であることは、とある「スクーデリア」のメカニックさんから聞いていて、事前に覚悟していました。
現在進行中の、Audi R8 V10 5.2Lへの「Super Charger 取付プロジェクト」に先立ち、スパークプラグを熱価の高いものに交換しようと考えていました。
並行し、前から気になっていたA/Cフィルターも交換しようと思い、海外から調達したものを車内に置いておいてのですが、それを目ざとく見つけられ、
「A/Cフィルターを交換するのですか?」
「交換、けっこう大変ですよ」
とのこと。
そのメカニックさんに、
「10本のスパークプラグを交換するのと、A/Cフィルターを交換するのと、どっちが難しいですか?」
と質問してみたところ、即答で、
「A/Cフィルターです」
「できれば、二度とやりたくないですw」
という言葉が返ってきました。
その時は、
「また~ぁ、そんな訳ないじゃん!」
「なにを大げさに」
と思っていたのですが、そんな訳ありました。
(メカニックさん、信じてなくて、ごめんなさい)
(V10エンジンのスパークプラグも、1番とか6番とか、かなり奥まったところにあって、これはこれで大変なのですけど)
死を覚悟し(これこそ、大げさ)、「プロの言うことは、素直に聞き入れるべきである」と、改めて思い直しました。
それにしても、Audi R8のA/C関係の、メンテナンス性の悪いことよ。
まさに、Porsche 911 GT3は「乗用車をレーシングカーに仕立てた」感じですが、Audi R8は「レーシングカーを乗用車に仕立てた」感じです。

CANマルチゲージの製作(1) - Audi R8編
流石です。
現場のメカニック目線でかつ、論理的に解説されている点はディーラーメカにも見てもらいたいレベルです。
今後R8のエアコンフィルター交換依頼があった時は依頼しても宜しいでしょうか?w
おぉ、とある「スクーデリア」のメカニックさん。ありがとうございます!
ネオスクさんの教えがなければ、ナメて掛かってたので、干からびて死んでました。
> 今後R8のエアコンフィルター交換依頼があった時は依頼しても宜しいでしょうか?w
いいえ。二度とやりたくないですw